クルーズ船で歌うという仕事
ダイヤモンド・プリンセスのシンガーに聞いた、海の上のステージの裏側

世界中の海を旅しながら、お客様の心を音楽で満たす――。
そんな夢のような仕事をしているのが、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で活躍するシンガーさんです。
今回は、シンガーであるSさんに、実際の仕事の内容や、舞台の裏側でどんな努力をしているのかをお聞きしました。
シンガーとダンサー、それぞれの役割

プリンセス・クルーズでは、シンガーとダンサーがはっきり分かれています。
他の船では、歌とダンスの両方をこなす「兼任型」も多いのですが、プリンセスでは専門性を重視しています。
また、船によっては「シンガー専属」「ダンサー専属」「シンガー&ダンサー兼用」と三つのタイプがあり、
それぞれチームを組んで契約を結ぶそうです。
ロサンゼルスでの稽古からスタート

契約が決まると、ロサンゼルスで1〜2ヶ月のリハーサルが行われます。
その期間に複数の演目を集中的に練習し、準備が整うと実際の船へ乗船。
中には、3隻分の契約を連続で行うこともあり、休みなく海の上で働き続けることもあるそうです。
実演できないショーもある
たくさんのショーを練習しても、実際に上演できないケースもあります。
理由は、ステージ設備の不調やスタッフ不足。

たとえば、ダイヤモンド・プリンセスで人気の「鶴の恩返し」ミュージカル。
大道具や切り替えが多く、舞台装置が故障しているため、現在は上演できていないそうです。
衣装は古くても、自分で工夫
衣装は支給されますが、長年使われているものが多いとのこと。
乗船時に専属の針子さんが体に合わせてくれますが、その後の細かな修正は自分で行うそうです。

華やかなステージの裏で、見えない努力が続いています。
チームリーダー次第で変わるショーの空気

ショーの完成度を左右するのが、チームリーダーの存在。
リーダーの方針によって、チームの士気や雰囲気が大きく変わります。
遊びに重きを置きすぎるとショーで体力が足りなくなることも。
一方で、反省点を共有し合い、常にアップデートを重ねるチームでは、ショーのクオリティがどんどん上がっていくそうです。
9ヶ月間、海の上で暮らしながら

シンガーさんは約9ヶ月間、船で暮らしながらステージに立っています。
航海中、メンバーが欠けてしまうこともあり、そのたびに配置を変えたり、ヘルプで出演したりと柔軟に対応しています。
舞台装置のトラブルが起きても、その都度ステージの位置を調整して乗り切るそうです。
もともとは「アクティビティスタッフ」からの転身

もともとSさんは、アクティビティスタッフとして働いていました。
お客様向けのイベントやゲームを運営する、船内の“盛り上げ役”です。
あるとき、クルーショー(乗組員が出演するショー)で歌を披露していたところ、
「オーディションを受けてみたら?」と勧められたのがきっかけ。
思いきって応募した結果、シンガーとして採用され、今の仕事に繋がったそうです。
ステージの光の裏にあるもの
取材の最後に、私の部署でお客様から寄せられた感想をシンガーさんにお伝えしました。

プリンセス・シアターのショーを見たお客様から、感想をたくさんいただいています。
特にアメリカでクルーズをよく利用されているお客様が、他の船のショーと比べて“チーム力が抜群”だと感動されていました。
ダンスや歌の揃い方が完璧で、誰か一人が目立ったり遅れたりせず、全体の完成度がとても高かったと。
さらに別のお客様は、『あなたの歌に感動して泣いてしまった』と話していました。

仕事は本当に大変で、体調を崩すこともあります。
でも、そんなふうに言ってもらえると、本当に嬉しいです。
華やかなステージの裏には、静かな努力とプロとしての誇りがありました。
そしてその歌声は、今日も海の上で多くの人の心を動かしています。


